アニソンのコード進行研究 ~セカンダリードミナントとツーファイブ分解~
こんにちは。
今回は、前々からいつか語りたいと考えていたテーマを元に記事を書いていきたいと思います。
それは何かと言いますと既にタイトルに書いてあるんですが、ズバリ"セカンダリードミナントとツーファイブ分解を用いたアニソン頻出のコード進行を研究しよう"というものです。
※「ドミナントって何?」とか「ツーファイブ分解って?」とかを説明し始めるとキリがないので各自勉強していただくとして、以下はある程度理解できる前提で話を進めます。
また、文中に登場するコード進行は筆者の耳コピによるものですので、間違っている可能性もございます。
以上2点をご理解頂いた上で読んでいただければ幸いです。
さて、今回テーマにするコード進行というのが
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 | Ⅳ…
というものです。
このコード進行は近年のアニソンでは頻出となっていて、「1クールのアニメの中で少なくとも1曲はこれを使ったOP、EDがある」と言われることもあるぐらいです(真偽は確かではありません)。
まずこの進行がどういうものか見てみると、Ⅲ7がⅥm7への、Ⅰ7がⅣへのセカンダリードミナントになっていますね。
さらにⅢ7がツーファイブ分解されてⅦm7-5 Ⅲ7に、Ⅰ7がツーファイブ分解されてⅤm7 Ⅰ7になっている、と解釈できるかと思います。
実はこれ、カノン進行にセカンダリードミナントを入れた形なのです。
カノン進行は度数表記で表すと
| Ⅰ | Ⅴ | Ⅵm | Ⅲm | Ⅳ…
という形ですが、これのⅤとⅢmをセカンダリードミナントに置き換えてやると
| Ⅰ | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅰ7 | Ⅳ…
になります(便宜上ここで7thを加えています)。
このセカンダリードミナントを前述の通りツーファイブ分解してやると
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 | Ⅳ…
の形になりますね。
つまりこの進行は、広義のカノン進行と呼ぶこともできる訳です。
更にこのコード進行、ジャズの世界でも有名なのです。
Charlie Parkerというアーティストの「Confirmation」という楽曲で、以下のような進行が登場します。
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 (Ⅱ7) | Ⅴm7 Ⅰ7 | Ⅳ7…
Ⅴm7の前にはⅡ7が入ったり入らなかったりするらしいです。
あとⅣに7thが付いていたりはしますが、本質的には同じですね。
なので、この進行のことを曲名から取って「Confirmation(略してコンファメとも)進行」と呼ぶこともあります。
また、アニソンの中でこの進行を用いた有名曲の名を取って「ハレ晴レ進行」「M@STERPIECE(略してマスピとも)進行」という呼び名もあります。
このように頻出なのにも関わらず様々な呼び方をされているので、ちょっとめんどくさかったりします。
様々な場面で登場するからこそ様々な呼び方が生まれてしまったとも考えられますが、これに統一した名前を付けることは非常に有意義な気がします。
ということで、暫定的にこのブログでは以降「Ⅱ-Ⅴ分解型カノン進行」と呼んでみたい
と思います(そのまんまじゃねぇか)(名は体を表すと言ってほしい)(「この曲の進行は?」って聞かれたとき「ああ、それはⅡ-Ⅴ分解型カノン進行ですね」って答えたらかっこよくね?)(オタク特有の早口)。
では無事(?)名前も決定したところで、つづいてアニソンでの実用例を見ていきたいと思います。
初級編
サビ(key=F)
| F | Em7-5 A7 | Dm7 | Cm7 F7 |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 |
| Bb | Am7 Dm7 | Ab | C |
| Ⅳ | Ⅲm7 Ⅵm7 | bⅢ | Ⅴ |
| F | Em7-5 A7 | Dm7 | Cm7 F7 |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 |
| Bb | Am7 Dm7 | Gm7 | Csus4 C |
| Ⅳ | Ⅲm7 Ⅵm7 | Ⅱm7 | Ⅴsus4 Ⅴ |
前述の通りⅡ-Ⅴ分解型カノン進行を用いた代表的なアニソンの1つです。
Ⅳ以降の流れですが、後半はⅢm7から強進行を連続させただけでわかりやすいので割愛するとして、前半では7小節目にAbというコード(度数表記だとbⅢ)が登場しますね。
これは同主調のFmからの借用と捉えるのが自然かと思います。
独特の浮遊感があって耳に残るようになっています。
・M@STERPIECE(作曲:神前暁(MONACA) 編曲:神前暁(MONACA)・高田龍一(MONACA))
THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!2015 Live Blu-ray ダイジェスト映像【第3弾】
29:48あたりから。
サビ(動画内で流れるのはラスサビです、keyは半音上がってFになってますがここでは1,2サビのkey=Eで書きました)
| E | D#m7-5 G#7 | C#m7 | Bm7 E7 |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 |
| AM7 | G#m7 C#7 | F#m7 E/G# A AM7 | D7 B |
| ⅣM7 | Ⅲm7 Ⅵ7 | Ⅱm7 Ⅰ/Ⅲ Ⅳ ⅣM7 | bⅦ7 Ⅴ |
| E | D#m7-5 G#7 | C#m7 | Bm7 E7 |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰ7 |
| AM7 | G#m7 C#7 | F#m7 E/G# A B | C D |
| ⅣM7 | Ⅲm7 Ⅵ7 | Ⅱm7 Ⅰ/Ⅲ Ⅳ Ⅴ | bⅥ bⅦ |
| E |
| Ⅰ |
こちらもⅡ-Ⅴ分解型カノン進行を用いた代表的なアニソンの1つです。
ハレ晴レユカイはBPM172だったのに対してこちらはBPM128となっているんですが、速くても遅くても使いやすい進行なのもポイントですね。
Ⅳ以降の流れはⅢm7→Ⅵ7のツーファイブでⅡm7に着地、その後Ⅰ/Ⅲ→Ⅳに上昇までは共通していて、前半ではⅤの前にbⅦ7が入っています。
これは同主調(Em)の平行調(G)からの借用ですが、このように借用を交えることでよくあるコード進行に彩りを加えるのがポイントですね。
後半はⅡm7→Ⅰ/Ⅲ→ⅣのあとⅤ→bⅥ→bⅦ→Ⅰまで上昇します。
bⅥ、bⅦも同主調(Em)の平行調(G)からの借用です、bⅥ→
bⅦ→Ⅰの進行も頻出ですね。
2020/7/13 追記
https://twitter.com/monaca_kosaki/status/1282518330885025792?s=21
Ⅶm7-5じゃなくてⅦm7でした。出直してきます。
中級編
・Catch the Moment(作曲:田淵智也 編曲:江口亮)
LiSA 『Catch the Moment』-Music Clip RADIO EDIT ver.-
サビ(key=G)
| G | % | B7/F# | % | Em | % | Dm7 | G |
| Ⅰ | % | Ⅲ7/Ⅶ | % | Ⅵm | % | Ⅴm7 | Ⅰ |
| C | C Cm | Bm7 | Bm7 Bb | Am7 | A7/C# | D | D |
| Ⅳ | Ⅳ Ⅳm | Ⅲm7 | Ⅲm7 bⅢ | Ⅱm7 | Ⅱ7/#Ⅳ | Ⅴ | Ⅴ |
| G | % | F#m7-5 | B7 | Em7 | Em7 D#m7 | Dm7 | G |
| Ⅰ | % | Ⅶm7-5 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅵm7 bⅥm7 | Ⅴm7 | Ⅰ |
| F#m7-5 B7 | % | Em7 C#m7-5 | % | Am7 | G/B | F D | % |
| Ⅶm7-5 Ⅲ7 | % | Ⅵm7 #Ⅳm7-5 | % | Ⅱm7 | Ⅰ/Ⅲ | bⅦ Ⅴ | % |
| Em7 |
| Ⅵm7 |
これは前半と後半で進行が変わっていて、その後半にⅡ-Ⅴ分解型カノン進行が用いられているパターンです。
前半もⅢ7をツーファイブ分解してないだけで似たような進行ですが、他にもⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲmのような純カノン進行は当然としてⅠ→Ⅰaug→Ⅰ6→Ⅰ7のようなよくあるクリシェに対してもⅡ-Ⅴ分解型カノン進行でリハモされることがあります。
・ギミー!レボリューション(作曲:田淵智也 編曲:やしきん)
内田真礼2ndシングル「ギミー!レボリューション」ミュージックビデオ
Aメロ(key=Bb)
| Bb | Am7-5 D7 | Gm7 Gbm7 | Fm7 Bb |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 bⅥm7 | Ⅴm7 Ⅰ |
| Eb | Gb | Dm7 Gm7 | Gb F/A |
| Ⅳ | bⅥ | Ⅲm7 Ⅵm7 | bⅥ Ⅴ/Ⅶ |
| Bb | Am7-5 D7 | Gm7 Gbm7 | Fm7 Bb |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 bⅥm7 | Ⅴm7 Ⅰ |
| Eb | Gb | Dm7 Gm7 | Cm7 D7 |
| Ⅳ | bⅥ | Ⅲm7 Ⅵm7 | Ⅱm7 Ⅲ7 |
ここまで紹介してきたのは全てサビでしたが、このようにAメロで使われるパターンもあります。
汎用性の高さ故にどこでも使える、ということでしょうか。
また、ここにもbⅥが借用で登場しているのも注目ですね。
そしてこれは個人的な意見なので話半分で聞いていただきたいのですが、AメロでⅡ-Ⅴ分解型カノン進行を使ってしまうと、サビのコード進行やメロをしっかり作りこまないとサビらしくするのが難しいと思うんですよね。
その点この曲はAメロⅡ-Ⅴ分解型カノン進行、Bメロ下降クリシェ、サビは4361系でメロもしっかり分かりやすいポップさを作り上げていて、聴くたびに「そりゃ人気曲になるよなぁ…」と思います。
上級編
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サビ(key=Db)
| Db | Cm7-5 F7 | Bbm7 Am7 | Abm7 Dbaug/G |
|Ⅰ| Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 bⅥm7 | Ⅴm7 Ⅰaug/#Ⅳ |
| Gb | Fm7 Edim | Ebm7 | Ebm7/Ab |
| Ⅳ | Ⅲm7 bⅢdim | Ⅱm7 | Ⅱm7/Ⅴ |
| Db | Cm7-5 F7 | Bbm7 Am7 | Abm7 Dbaug/G |
| Ⅰ | Ⅶm7-5 Ⅲ7 | Ⅵm7 bⅥm7 | Ⅴm7 Ⅰaug/#Ⅳ |
| Gb | Fm7 Edim | Ebm7 | Ebm7/Ab | Ebm7/Ab |
| Ⅳ | Ⅲm7 bⅢdim | Ⅱm7 | Ⅱm7/Ⅴ | Ⅱm7/Ⅴ |
| Gb B7 | Fm7 Edim | Ebm7 | Gb |
| Ⅳ bⅦ7 | Ⅲm7 bⅢdim | Ⅱm7 | Ⅳ |
こちらの曲では、Ⅰ7の代理としてⅠaug/#Ⅳが使われています。
#Ⅳ7(9,#11)omit3,5という解釈や、Ⅰ7(b13)omit5,7がⅠaugで、そのベースを裏の#Ⅳに回したという解釈など、多様な解釈ができるコードになっています。
やはりこのように一癖あるコードを入れると良いフックになるので、巧みに使われている曲を聴くと感動しますね。
【アイドルマスター】「Star!!」(歌:CINDERELLA PROJECT)
頭サビ(key=E)
| E | D#m7 G#7 | C#m7 | Bm7 Eaug/A# |
| Ⅰ | Ⅶm7 Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅰaug/#Ⅳ |
| A B/A | G#m7 C#7 | F#m7 | A/B |
| Ⅳ Ⅴ/Ⅳ | Ⅲm7 Ⅵ7 | Ⅱm7 | Ⅳ/Ⅴ |
ここまで紹介してきたⅡ-Ⅴ分解型カノン進行とは少し違う形になっています。
まずⅦm7-5の部分がⅦm7ですが、ここに関しては正直厳密な理解が及んでいません…。
マイナーのツーファイブはⅡm7-5 Ⅴ7 Ⅰm7の形が基本で、ここまで紹介してきた曲もⅦm7-5 Ⅲ7 Ⅵm7になっています。
もちろん厳密にこの形でなければダメという訳ではないのでⅦm7でも問題はないのですが、「敢えてⅦm7-5ではなくⅦm7を採用している理由があるのか」というのが気になっています。
分かる方が居れば教えてください…。
それから、こちらにもⅠaug/#Ⅳが代理で登場しています。
まあ、田中秀和さんらしいという感じではありますがw
総括
というわけで、ここまで6曲を題材にⅡ-Ⅴ分解型カノン進行を研究してきました。
研究を踏まえて僕個人の考えをまとめると、例えば「勢いを感じさせたい」という場面においては、ツーファイブ分解によってコードチェンジの回数を増やすことでその目的を達成したり、「些細な感情の変化を感じさせたい」という場面においては、コードそのものの響きでいろいろな感情を想起させたり、などなど様々な場面で使えるので、そういう楽曲制作が求められる現場での活躍が目に付くのかな?という感じですね。
ただ様々な場面で使えるということは、裏を返せば使う場面をしっかり選ばないとある種のマンネリを引き起こしてしまう可能性がある、ということでもあります。
なので、作り手側はこれを使うときこそ本当の手腕が試されるんだろうな、と思いました。
まあそんな感じで今回はここまでです。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
それでは~。